II.臓器別の診断治療の概要

上咽頭がんじょういんとうがん

【上咽頭がんのあらまし】

 鼻の中のつきあたりで、咽頭いんとうの上部に位置する上咽頭に発生する悪性腫瘍は、粘膜の表面から発生するいわゆるがん(がん)とリンパ組織から発生する悪性リンパ腫などがありますが、日本では上咽頭がんが多くを占めています。EBウイルスというウイルスががんの発生に関わることが知られていますが、このウイルスにはほとんどの日本人が小児感染しており、通常は症状もみられません(不顕性感染)。上咽頭がんの発生に関わっているとはいえ、EBウイルスによるがんがヒトからヒトに感染する訳ではありません。中国南部や東南アジアでは高頻度にみられますが、日本で年間0.8人/10万人程度とされています。男性の発症は女性の倍、あるいはそれ以上みられ、60才代に最も多いのですが、他のがんに比べ若い人にも比較的発生がみられます。

【上咽頭がんの症状】

 症状としては、耳の閉塞感や鼻づまりが最初にみられることが多く、進行すると痛みや周囲の神経を侵して、眼球の動きに障害が出たり、舌や咽頭の動きが低下したりします。また、頸部(くび)のリンパ節転移を生じやすく、頚部のリンパ節腫脹で気付くことも少なくありません。

【上咽頭がんの診断】

 診断は、内視鏡検査で確認してがん組織を少量採取(生検)して行われます。がんの広がりを診断するためには、CTMRI検査が行われます。

【上咽頭がんの治療】

 治療は、通常は放射線治療抗がん剤に反応が良いため、これらを組み合わせて行います。上咽頭は頭の底に相当する部分になるため十分な切除が容易ではないので、手術治療は一般的には行われません。ただ、頚部のリンパ節転移に対しては行われます。早期の浅く、小さな腫瘍には特殊なレーザー光線を用いた治療も行われます。肺への転移や再発も少なくないため、5年生存率は50〜60%です。

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中咽頭がんちゅういんとうがん

【中咽頭がんのあらまし】

 中咽頭がんの発生頻度は、頭頸部がんの10%近くを占めています。中咽頭には悪性リンパ腫や腺がんなどもみられますが、他の頭頸部がんと同様に扁平上皮がんが最も多く認められます。男女比は男性が約80%を占めて圧倒的に男性に多く、好発年齢は50〜60歳代となっています。中咽頭がんの発がんの誘因は飲酒や喫煙などの慢性的な刺激が大きく関与されていると考えられています。

【中咽頭がんの症状】

 初期の症状は軽度で、のどの異物感、違和感、飲み込み(嚥下)時のしみる感じです。進行するとともにのどの痛み、飲み込みにくい、喋りにくいなどの症状が強くなります。さらに進行すると、激しい痛みや出血、ふくみ声、呼吸困難などの症状も出てきます。また、のどの症状はなくて、頸部のしこり(リンパ節転移)が唯一の症状のこともあります。

【中咽頭がんの診断】

 診断はまず視診と触診を行い、ファイバースコープで他の頭頸部領域も含めて注意深く観察します。腫瘍の固さが発見の決め手になることもあり、触診も重要です。がんが疑われる部分の一部を採取して病理組織検査によって確定診断をします。さらにがんの進展範囲を調べるためにCTMRI、超音波などの画像検査を行ないます。飲酒や喫煙などの発がんの危険因子は中咽頭がんだけでなく、食道がんも生じやすいので上部消化管内視鏡検査も必要です。これらの検査を行なった後、病気の進行状況(病期)を決定して、治療方針をたてます。

【中咽頭がんの治療】

 中咽頭の扁平上皮がんに対する治療は、放射線治療、手術、抗がん剤による化学療法があります。従来は放射線治療が主体でしたが、再建外科の進歩により拡大切除が可能になりました。さらに最近では、機能・臓器温存のために化学療法を放射線治療に同時に併用する化学療法・放射線同時併用療法も行なわれるようになり、病気の部位、進展状況など総合的に検討して治療法が決定されます。

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下咽頭がんかいんとうがん

【下咽頭がんの概要】

 下咽頭がんは頭頸部がんのなかでも予後の悪い疾患のひとつです。その多くは飲酒量の多い中年以降の男性にみられます。下咽頭は肉眼的に直接みることが困難な部位にあります。また拡がりやすいこと、頸部リンパ節転移しやすいことから、他のがんに比べて進行がんで発見される事が多いのが特徴です。

【下咽頭がんの症状】

 初期の症状としては、「のどの痛み」や「食べ物がつかえ」などがあります。進行すると「嗄声(声の枯れ)」や「息苦しさ」を訴えることがあります。また、頸部のリンパ節に転移による「頸部のしこり」で気づくことがあります。

【下咽頭がんの診断】

 下咽頭がんの診断の基本は間接喉頭鏡、もしくは咽喉頭内視鏡ファイバーを用いた局所観察です。頸部の触診ではリンパ節腫脹に注意を払います。確定診断は一般には局所麻酔下に内視鏡で生検を行います。局麻下での診断がつかないときは、全身麻酔下に生検を行うこともあります。CTやMRIなどの画像診断で腫瘍の範囲や転移を診断しますが、食道がんを重複することが多く、上部消化管内視鏡検査や食道造影検査を行います

【下咽頭がんの治療】

 早期のがんには「放射線治療」や「喉頭温存を含めた手術療法(下咽頭部分切除)」を行います。進行した場合には「下咽頭・喉頭頸部食道摘出術」が最も多い治療法です。この場合、食道の再建は多くは空腸を用いて行います。喉頭全摘出術を受けた場合は代用発声法もあります。手術を望まない方は「化学放射線治療」が選択できますが、治療成績にはそれぞれ差があるため、治療法の選択には医師との十分な対話が必要です。

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喉頭がんこうとうがん

【喉頭がんの概要】

 喉頭がんは頭頚部領域で最も多い悪性腫瘍で、日本では年間2.8人/10万人程度とされています。発症には喫煙が強く関与しており、男性に多いのも喫煙習慣が男性に多いためと考えられています。また、喫煙による危険度の高さは肺がん以上に高いと考えられています。その他、飲酒や口腔内の不衛生なども発症誘因になるといわれています。喉頭がんは、声門上がん、声門がん、声門下がんの3つに分類されます。声門とはいわゆる声帯の部分を指し、発生頻度は声門がんが最も多く喉頭がんの6割以上を占める。一方で声門下がんは少なく数%程度にすぎません。

【喉頭がんの症状】

 声門がんは早期がんで発見されることが多いことが特徴である。これは早期から嗄声(声のかすれ)がみられることが多いためです。声のかすれを症状として初期の段階で耳鼻咽喉科を受診してがんが発見される機会が多いためです。声門上がん、声門下がんはより進行した状態になるまで自覚症状に乏しいことが多く、声門がんに比べて早期の発見は困難な場合が多いようです。

【喉頭がんの診断】

 がんの進行の度合いは、頸部の触診に加え、喉頭鏡や喉頭内視鏡検査、さらにはCTMRIなどを用いて総合的に評価します。

【喉頭がんの治療】

 治療法は一般的に早期がんであれば放射線治療が選択されることが多く、8〜9割近くは根治が可能です。喉頭部分切除による手術治療も選択可能ですが、除放射線治療で根治できた場合は手術に比べ治療後の声の質が良いという利点があります。進行がんには手術が行われることが多く、喉頭摘出により声を失う場合が多いようです。最近では喉頭機能を温存する目的で抗がん剤を併用した放射線治療が選択される機会も増えつつあります。

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上顎洞がんじょうがくどうがん

【上顎洞がんの概要】

 上顎洞は副鼻腔(鼻腔に通ずる顔面骨にある4つの空洞)の一つです。上顎洞がんは副鼻腔で発生するがんでは最も多い種類です。他の頭頸部がんと比べるとリンパ節転移などは少ないですが、早期には自覚症状があまり出ないので早期発見が難しく、発見された時点ではすでに進行している場合も多くあります。

【上顎洞がんの症状】

 早期では症状に乏しいことが多いが、進行すると「鼻づまり」、「鼻出血」、「頬部の腫脹」、「眼球の突出」、「硬口蓋の膨隆」、「嗅覚の障害」、「複視」などを引き起こします。

【上顎洞がんの診断】

 鼻鏡や内視鏡による鼻腔内の観察を行い、腫瘍が鼻腔や口腔に現れていれば生検を行います。そうでなければ単純X線写真やCTなどの画像検査を行い、腫瘍の疑いがあれば少し侵襲のある生検を行います。確定診断がつけば進行度の診断をCTやMRIで行います。

【上顎洞がんの治療】

 早期のがんには放射線治療」や「手術療法(上顎部分切除~上顎全摘)」を行います。進行している場合は手術、放射線治療、抗がん剤を組み合わせた集学的治療が行われます。手術で口蓋欠損や拡大切除では再建を要し、義顎(入れ歯)を用いて口蓋を閉鎖するか、または遊離皮弁による再建手術を行います。化学療法は通常の化学療法に加えて動注化学療法も行われます。

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舌がんぜつがん

【舌がんの概要】

 舌がんは口腔内に発生する癌の約90%を占めます。他の頭頸部癌がんの多くは中高年ですが、舌がんはやや年齢層が若い人にも発症するのがひとつの特徴です。また自己観察しやすい臓器であるため、約2/3は比較的早期の状態で発見されます。飲酒や喫煙などの関連が指摘されています。

【舌がんの症状】

 舌癌の典型的な症状は、舌の側縁にできるしこりです。進行すると「痛み」を伴い、潰瘍を作る場合は「出血」することもあります。さらに進行すると「食べ物が摂りにくい」とか、「話しづらい」といった症状が出ます。

【舌がんの診断】

 視診や触診が比較的容易ですが、白斑症や難治性潰瘍などの鑑別のため確定診断には生検が必要です。診断がつけば、進行度の診断にCTやMRIなどの画像検査を行います。

【舌がんの治療】

 主な治療は「手術」と「放射線治療」があります。組織内照射は可能な施設が限られており、外科治療が多く行われています。進行癌での手術では切除範囲により自家遊離組織移植をはじめとする再建手術を要します。特に舌(亜)全摘症例では容積のある再建材料を用いて術後の嚥下や構音機能の回復に努めます。進行癌に対しては化学療法(抗がん剤)が用いられることがあります。

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唾液腺がんだえきせんがん

【唾液腺がんの概要】

 唾液(つば)を作り出す唾液腺には、耳の下の「耳下腺」、顎の下の「顎下腺」、舌の裏の「舌下腺」といった大きなもの(大唾液腺)と、口や咽頭に多数存在する小さなもの(小唾液腺)があります。このうち耳下腺に発生する腫瘍は良性が多く、悪性(がん)は20%弱ですが、他の部位では悪性腫瘍の占める割合が増加します。唾液腺がんとしては、耳下腺に発生するものの数が、多くを占めます。ただ、発生頻度は地域の基幹病院においても年に3〜10名程度の患者さんが受診される程度で決して多くはありません。

【唾液腺がんの症状】

 唾液腺がんのなかには、進行が早く、転移しやすい悪性度の高いものから、進行が遅く転移しにくい悪性度の低いもの、その中間の悪性度のものと様々な種類があります症状は無痛性の腫瘤として自覚されることが多いのですが、進行すると顔面神経マヒや痛み、さらに口を開けにくくなるといった症状が出てきます。

【唾液腺がんの診断】

 診断は、顔面神経マヒや転移があるものを除くと、CTMRIといった検査では必ずしも判断は出来ません。また、注射針で細胞を吸引して調べる検査(吸引検査)でも、がんの診断率は50〜60%程度と限られています。PET検査も偽陽性が比較的みられるなどの問題があります。特に悪性度が高いのか低いのかの判断は一般的には困難です。

【唾液腺がんの治療】

 治療は、放射線や抗がん剤の効果は限られているため、通常は手術が中心になります。手術の内容はがんの悪性度や広がりによって判断されます。耳下腺内は目を閉じる、口唇を動かす、頬を動かすといった顔の筋肉の動きを司る顔面神経が走っています。がん細胞はこの神経に沿って広がりやすいことから、たとえ顔面神経マヒがなくても、がんが癒着していれば切除しますし、特に悪性度が高いがんでは大きく切除して、顔面神経の移植が行われます。予後は、がんの悪性度、進行度によって大きく異なり、5年生存率は悪性度の高いものでは30%程度です。

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甲状腺がんこうじょうせんがん

【甲状腺がんの概要】

 甲状腺がんは組織型によって分化がん(乳頭がん、濾胞がん)、髄様癌、未分化癌strong>に分類されます。この組織型によって予後は大きく異なります。分化癌、特に高分化がんは予後が良好ですが、未分化癌では有効な治療が確立されておらず、短期間に亡くなる患者さんもいます。主たる治療は外科治療です。

【甲状腺がんの症状】

 主訴としては「頸部腫脹」、「頸部のしこり」や「咽喉頭違和感」が多くみられますが、進行すると「嗄声(声のかすれ)」や「嚥下障害(飲み込みにくい)」などが生じることがあります。

【甲状腺がんの診断】

 甲状腺機能検査と超音波検査を行い、腫瘍が疑われれば穿刺吸引細胞診を追加する。穿刺吸引細胞診は甲状腺結節の良悪性の鑑別診断に有効で乳頭がんのほか、髄様がん、悪性リンパ腫、未分化がんの診断にも有用とされています。

【甲状腺がんの治療】

 甲状腺がんに対する治療法には、「外科的切除」、「放射性ヨード療法」、「外照射」、「甲状腺ホルモン療法」がありますが、このうち治癒が期待できるのは外科的切除であり、その他は補助療法として使用されます。

 ここまでは色々な種類の「頭頸部がん」についてそのあらましを見てきました。続いて代表的な治療法について具体的に見てみましょう。

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