VIII.緩和治療

①緩和医療とは

 がん医療における緩和医療(緩和ケアともいいます)では、患者さんやご家族のつらさを、からだの苦痛、こころの苦痛、社会生活上の苦痛、生きている意味などを模索するスピリチュアルな苦痛といった多方面からアプローチします。これらのつらさを積極的にやわらげ、生活の質(QOL)を向上させることが、緩和医療の目的です。

 緩和医療は、がんの診断を受けたときから、がんの治療と並行して行うべきものとされています。手術による痛みや抗がん剤による吐き気の治療も緩和ケアです。また心のケアはいつでも大切ですし、仕事や学業とのかね合いや医療費の相談などの問題に対するアドバイスも必要です。早い時期から緩和医療を受けることで、安心してがんの治療を受けることができるようになるのです。

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②緩和医療を受けようと思ったときには

 緩和医療は、主治医のほか、緩和ケア病棟や緩和ケア外来、緩和ケアチーム、在宅緩和ケアなどから受けることができます。どれを利用したらよいのか迷うときには、主治医や看護師、ソーシャルワーカー、おかかりの医療機関の相談支援センターや地域医療連携室に相談してみることをおすすめします。

緩和ケア病棟
緩和ケア外来
痛みや心のケアを専門に行う病棟・外来です。入院の場合、症状がやわらげば、自宅療養に移行することも可能です。
緩和ケアチーム 一般病棟の入院患者さんが対象となります。体の苦痛の緩和を担当する医師、心のケアを担当する医師、緩和医療を専門とする看護師・薬剤師・栄養士・臨床心理士・ソーシャルワーカーなどがチームを作り、主治医の先生と協力して、つらい症状をやわらげる治療や療養のアドバイス行います。
在宅緩和ケア 自宅で療養している患者さんが対象となります。在宅療養支援診療所では、24時間体制で往診や訪問看護を行っています。
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③緩和医療の対象となる主な症状

・痛み

 痛みは、毎日の暮らしを悪くする(食事や入浴ができない、眠れない)、心がつらくなるなどの問題をもたらします。がんの痛みだからしょうがないというのは誤解であり、治療が可能な症状ですので、我慢せず積極的に軽減することが大切です。

 痛みの治療は、痛みの様子を主治医に伝えることから始まります。いつから、どこが、どのようなときに、どんなふうに、どのくらい、といったふうに伝えていただくと、痛みの原因を診断しやすくなり、その方に合う薬や量を決めることができます。

いつから 昨日から、1週間前から、1ヶ月前から など
どこが 体のどの位置に痛みがあるのか、複数あればそれぞれ伝える
どのようなときに いつでも同じ、動いたとき、動き始め、原因なく突然、同じ時間 など
どんなふうに 重苦しく、鋭い、しびれたような、締め付けられる、電気が走る、周期的、だんだん強い(弱い) など
どのくらい ・弱い、中くらい、強い
・"0"痛みなし、"10"を最強の痛みとして、0~10の数字で表現する

がんの痛みの治療には医療用麻薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)を使うことがありますが、いずれも投与量に制限はなく痛みがとれる量まで使うことができます。医療用麻薬を使うと中毒になる、気がくるってしまう、麻薬を使うのは末期の患者だけだ、といった心配をよく聞きますが、これらはすべて根拠のない迷信です。正しい知識を持って、主治医の指導のもと適切に使用すれば安全で効果のあるよいお薬です。

 お薬のほかに、ぐっすりと眠る、うまく気晴らしする、マッサージ、あたためる、装具や補助具(杖、コルセット)を使う、姿勢や移動を工夫する、といったケアも取り入れると効果的でしょう。

・呼吸困難

 呼吸困難は「息がしづらい」「息がつまる感じ」といった症状であり、息の通り道がせまくなる(気道狭窄)、肺炎などで咳や痰が増える、肺に水がたまる(胸水)、貧血、痛みや不安感などが原因となります。

 酸素療法は、酸素を吸入することで自覚症状を軽くする方法であり、自宅ですごしたい場合は、酸素吸入器を自宅に置くこともできます(在宅酸素療法)。また、モルヒネなどの医療用麻薬は、浅い呼吸を深く落ちついた呼吸に整えたり、咳をおさえることで症状をやわらげます。また、がんによって息の通り道(気道)に浮腫や炎症がある場合はステロイドという薬を使うことがあります。

・嚥下困難

 嚥下困難は、飲みこみが難しい症状であり、多くの頭頸部がん患者さんで起こる症状です。手術の後遺症、がんが息や食べ物の通り道をふさぐ、がんが飲みこみに関与する神経を圧迫することなどが原因となります。

 治療では、ステロイドという薬でがんの炎症をやわらげたり、食道癌の患者さんでは食道をひろげる処置(内視鏡的拡張術)を行うこともあります。また、少しの量でも栄養がとれるように補助食品を取り入れたり、飲みこみやすいようにやわらかい食べ物にするなどの食事の工夫を行います。栄養チューブや胃ろうを使って栄養管理を行うこともありますが、本当に必要かどうかは主治医ときちんと相談して決めることが必要です。

・口の乾燥・口臭など

 治療の後遺症やがんの進行によって唾液が少なくなったり、食事や水分の摂取が少なくなると、口の中が汚れやすくなったり、乾燥しやすくなったりします。また、がんの壊死や感染によって、息に悪臭がまじることがあります。

 食事のあとの歯みがきやうがいの習慣をつけ、適度な水分摂取をすすめ、口のなかをうるおしておくようにします。定期的に歯科医の診察を受け、虫歯のチェックやケアの指導を受けることもよいでしょう。

・出血

 化学療法や放射線療法のあとは、血を作る骨の中心部分(骨髄)のはたらきが弱くなり、出血しやすくなることがあります。また病気がすすむと、がんのまわりの組織がもろくなったり、血液が固まりにくくなり、出血しやすい状態となります。

 体の表面からの出血では、止血剤をしみこませたガーゼで出血している部分を圧迫する、冷やすなどの対応を行います。体の中からの出血に対しては、止血剤を点滴することがあります。

・心のケア

 がんの患者さんの多くは心の問題をかかえておられます。がんになったすべての患者さんが体験するような気分の落ち込みから、専門的な治療が必要となる抑うつや不安までさまざまですが、日常生活に支障が出るようなら、心のケアが必要となります。  また、もうろうとする、朝と夜をまちがえる、家と病院をまちがえる、夜眠れないといった症状が生じることがあります。これらはせん妄といわれ、一般病院でもよくみられる症状であり、原因となっている体の調子を整えたり、症状をやわらげる薬を使うなどの対応が必要となります。

 積極的な治療から緩和医療を中心とする治療へ移行する時期の患者さんのなかには、「自分はもはや役に立たないのではないか」「自分の人生にどんな意味があったのか」など、人生の意味や自分の価値について悩まれる方がおられます。スピリチュアルな問題といい、複雑で簡単には解決できない問題ですが、患者さんの個別性を大切にしながら話し合っていくことが必要となります。

 心のケアは、精神科や心療内科、緩和ケアチームの医師、看護師、心理士などに相談することができます。

 

◇緩和医療をもっと知りたいと思うかたは、下記のホームページも参考にしてください。

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