VII.支持療法

 支持療法(supportive care)とは、がんそのものに伴う症状や、治療による副作用に対して、予防をしたり軽減させる治療のことです。

 がんや治療によって様々な症状や心理的ストレスが起こってくることがあり、これらは外科手術、化学療法、放射線療法といった、がん本来の治療を行っていく上で障害となるばかりではなく、患者さんの生活の質(QOL: quality of life)を低下させます。したがって、これらを予防、軽減させることは、がん本来の治療とともに重要な治療なのです。

 頭頸部がんの支持療法としては以下のようなものがあります。

①飲酒や喫煙

 頭頸部のがんの発生には喫煙や飲酒が大きく関わっている事が判っています。このため、禁煙、断酒もがんの治療とともに重要になってきます。しかし、禁煙や断酒の背景には物質依存(ニコチン依存、アルコール依存)の問題があり、一人で行うことはなかなか困難です。そのため、きちんと診断を受け専門家に相談することが重要です。

 指定された医療機関の「禁煙外来」では保険診療で治療を受けることが出来ますので、各都道府県の社会保険事務局にお問い合わせ下さい。また、断酒については断酒会や専門の治療機関において治療を受けることが出来ます。

 長期に飲酒を続けていた場合、急な断酒によりアルコールが体内から急に抜けていくことによる症状(離脱症状:動悸、発汗、手の振るえ、幻覚、など)が起こることがあります。この場合にはお薬(一部の精神を安定させる薬剤など)を使用することで、離脱症状を和らげることが出来ます。また、長期に飲酒を続けていた場合、適切な栄養摂取が出来ずにアルコール性の認知症が起こることもあります。この場合にも、早期であれば適切な栄養補給による治療を行えばある程度の改善が期待できます。

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②せん妄

 頭頸部のがんの治療を行っていく過程において、「せん妄」という病態が問題になることがあります。せん妄とは、手術後やがんの脳転移、脱水、感染、貧血、薬物など体に負担がかかったときに生じる脳機能の乱れであり、以下のような特徴があります。

≪せん妄の症状≫

  • 話をしていても集中できない、気が散る(注意力の障害)。
  • 現実にありえない考えに支配される(妄想)、存在しないものが見える(幻覚)。
  • 昼と夜が分からない、病院と家を間違える、家族のことが分からない(見当識の障害)。
  • 夜眠れなくなり、日中眠くなる(睡眠覚醒リズムの障害)。
  • ぼうとする(意識レベルの低下)。
  • 治療していることを忘れて点滴などのチューブを抜いてしまう、興奮する(混乱、錯乱)。
  • 夕方以降に症状が悪化する(日内変動)。
    など

 せん妄は、一般の総合病院に入院している患者さんの20〜30%にみられる症状であり、ご高齢の方、飲酒量の多い方、認知症あるいは普段から物忘れのある方、以前にせん妄になったことがある方、に生じやすいことが判っています。せん妄が起こることで、本来の治療が出来なくなってしまったり、治療期間が長くなってしまうことも少なくありません。このため、せん妄を予防することや適切に治療することは重要となります。

 せん妄は、体の症状のひとつであり「気持ちの持ちよう」や「こころの問題」ではありません。適切な治療を行えば、半数以上の患者さんで改善するといわれています。

 治療では、脳機能の乱れを改善する薬(うつ病や認知症、統合失調症の患者さんに対して認知機能を回復するようにはたらく薬がせん妄にも有効です)や患者さんが安心できるような環境の調整をあわせて行っていきます。

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③心理的ストレス

 頭頸部がん患者さんにおいて、生じうる心理的ストレス(不安・恐怖)には以下のようなものが判っています。ただし、多くはすべてのがんの患者さんにも共通したものです。

≪主な不安・恐怖≫

  • がんが進行するのではないか。
  • 死んでしまうのではないだろうか。
  • 治療の副作用はどのようなものだろうか。耐えられるだろうか。
  • 自分ひとりでは生活できないのではないだろうか、誰を頼りにすればよいのか。
  • これまでどおりの生活は送れるのだろうか。
  • 今まで楽しめていたことがまた楽しめるだろうか。
  • 飲んだり、食べたり、声を出すことが出来るだろうか。
  • 声を出してコミュニケーションが出来るだろうか。
  • 痛くないだろうか。
  • 見た目がひどく変化するのではないだろうか。
  • 人から差別を受けないだろうか。

 このようなストレスはがん患者さんにとって一般的なものですが、治療そのものに加えてこれらが重なってくることで「うつ病」、「適応障害」、「不安障害」などの精神疾患を併発する場合があります。一般の健康な方に比べて、がん患者さんは2〜3倍の頻度で抑うつ症状が出現することが研究で明らかとなっており、頭頸部がん患者さんの16〜20%が「適応障害」や「うつ病」の診断を満たすことも明らかになっています。

 がん治療を行っていく上で、心理的なストレスがかかり精神疾患を併発することは特別なことではありません。気持ちがつらいときは我慢せずにご相談ください。薬物療法や精神療法を行うことや、専門医に紹介することも可能ですし、緩和ケアチームがいる施設では専門家に治療に参加してもらうことも可能です。適切な治療を行うことで苦痛を軽減したり、改善が期待できます。

≪うつ病とは≫

 気分の落ち込み、意欲や興味の消失、不眠や過眠、食欲の低下や増加、考えや動きが遅くなる、集中できなくなる、過度に自分を責める、死にたくなる、といった症状が出現し持続する気分の障害です。

≪適応障害とは≫

 明らかなストレスがあり、そのストレスが直接の原因となって予測を超える苦痛や情緒面や行動面での症状が出現し持続する障害です。

≪不安障害とは≫

 パニック障害、全般性不安障害、急性ストレス性障害などに代表される、不安を主症状とした障害のことです。発汗、動悸、頻脈、などの自律神経症状を伴うこともあります。

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