III.頭頸部がんの切除手術

①舌の切除手術

 口腔がんのなかで最も頻度の多い舌がんの手術について示します。腫瘍の大きさや部位によって舌の術式が選択されます。おおまかに次のような種類に分けることができます

【舌部分切除】

 比較的小さい腫瘍であれば部分切除といって舌の小範囲の切除を行います。この方法であれば口の中から行うことが可能で、手術の負担も少なく術後機能もほとんど障害されません

【舌半側切除】

図3

図3

 比較的大きながんでは切除の範囲も大きくなり、舌の1/2を切除する場合を舌半側切除といいます。舌の半分を越えるような切除が必要な場合は、口の中からの切除に加えて頚部の切開も必要となってきます。また、切除した部分を修復するために組織移植を行う場合があります。舌部分切除より機能障害がやや大きくなりますが、食事や会話は十分可能です(図3)。

【舌(亜)全摘】

図4

図4

 大きく広がった腫瘍の場合、広範囲の舌の切除が必要になる事があります。その場合は術後の食事の摂取障害や会話の障害が問題となりますが、体の他の部分から組織を移植する再建手術を行うことで、術後の機能障害を軽減することが出来ます(図4)。右の図は腹部の皮弁を移植した再建術後の状態です。

 

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②下顎骨の切除手術

図5

図5

 歯肉がん、口腔底がん、頬粘膜がんなど、口腔がんの一部では下顎の骨の切除を行うことがあります。下顎骨を切除する術式としては大きく辺縁切除と区域切除に分けられます(図5)。

 【辺縁切除】は下顎骨の高さの1/3から1/2程度をそぎ取ってくるような切除で骨の連続性が保たれます。

 【区域切除】は下顎骨を完全に切り離してしまうので骨の連続性がなくなります。このままでは、食事が咬めなくなってしまうので、切除した部分に骨を移植したり金属のプレートを用いて下顎骨を再建したりする事があります。

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③喉頭の切除手術

 喉頭がんに対する手術として代表的な喉頭全摘術喉頭部分切除術を示します。腫瘍の大きさや部位によって喉頭の切除術式が選択されます。喉頭の進行がんの多くは喉頭全摘術が行われます。

【喉頭全摘術】

 手術は頸部の切開を行い、喉頭を摘出します(図6)。上下の両端矢印が切除範囲を示します。喉頭は咽頭の前方に位置するため、喉頭を摘出すると咽頭の前壁に穴が開いたようになります(図7)。それを縫合閉鎖し、食事の通り道を作り閉創します(図8)。白矢印が呼吸の通り道、黒矢印が食事の通り道を示します。喉頭摘出により失声状態となります(身体障害者3級認定)。術後は気道(呼吸の通り道)と食道(食事の通り道)が分離され、気管孔が形成されます(図9)。

図6

図6

図7

図7

図8

図8

図9

図9

 左右の鎖骨の間近くに気管孔が開いています。気道と食道はそれぞれ独立した別々の管となるためむせることはありませんが、鼻や口を空気が通らなくなるため、鼻をかんだり、においをかいだりすることができなくなります。また、気管孔は永久気管孔として一生閉じることはできません。そのため、入浴は胸までなど日常生活に種々の不自由が生じます。代用音声の再獲得には、食道発声法や人工喉頭の使用そして気管食道瘻形成術などを行うことがあります

【喉頭部分切除術】

図10

図10

 初期の喉頭がんでは発声機能を残すため、喉頭部分切除が行われることがあります。腫瘍の大きさや部位によってさまざまな術式が選択されます。代表的な喉頭部分切除術は声帯から発生したがんに対して行われる喉頭垂直部分切除術というものです。のど仏の軟骨(甲状軟骨)の中に声帯がありますが、その軟骨を切り開き、声帯およびその周囲の組織を切除します。図はその一例で、両端矢印が切除範囲、*は生体に発生した腫瘍を示します。切除された部分には皮膚や筋肉などが置換されることがあります。

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④下咽頭の切除術

 下咽頭がんに対する手術は、①喉頭を全部合併切除する下咽頭喉頭頸部食道摘出手術と②喉頭を温存する下咽頭部分切除術に大きく分けられます

【下咽頭喉頭頸部食道摘出手術】

図11

図11

 下咽頭の進行がんでは、多くの場合、喉頭全部と下咽頭と頸部食道までの切除となります(図11:赤線)。切除後は、気道(呼吸の通り道)については気管の切り口を頸部の皮膚に縫いつけて気管孔を作ります。食道(食事の通り道)の代表的な再建方法は遊離空腸移植と呼ばれる方法で、開腹して空腸(小腸の一部)を必要な長さだけ切り取り、それを欠損した咽頭と食道の間に入れてつなぎ合わせます。顕微鏡下に微小血管吻合術(直径2〜3mmの血管:動脈と静脈を少なくとも1対つなぎ合わせます)を行い、頸部に持っていった空腸へ再度血流が回復できるようにします。手術後の最大の後遺症は、喉頭全摘により手術前の声を失うこと(身体障害者3級認定)ですが、多くの方は練習することにより代用音声(食道発声や器具を用いた発声など)で意思の疎通が可能となります。手術後は、気道(息の通り道)と食道(食事の通り道)は独立した別々の管となるためむせることはありませんが、鼻や口を空気が通らなくなるため鼻をかんだりにおいをかいだりできなくなります。また、気管孔は永久気管孔として一生閉じることはできません。そのため、入浴は胸までなど日常生活に種々の不自由が生じます。これは前述した喉頭全摘術の場合と同様です。

【下咽頭部分切除術】

 腫瘍が下咽頭のみにとどまっているか、喉頭へ広がっていても程度が軽い場合には、喉頭を温存した下咽頭部分切除術が可能な場合があります(図11青線)。切除範囲が小さい場合にはそのまま縫い縮めることができますが、比較的大きい場合には種々の組織移植による再建が必要となります。一時的に気管切開が必要となることがありますが、後日、閉鎖して発声が可能となります。喉頭を一部切除するような場合には、術後の食事の摂取障害に対して練習が必要となることがあります。また、声がかすれることが残る場合もありますが、日常生活の不自由は大きくありません。

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⑤中咽頭の切除術

図12

図12

 中咽頭がんのなかで最も頻度の多いものは側壁(扁桃腺を中心とした部分)のがんです。側壁がんのうち早期のものは扁桃腺摘出に準じて口の中から切除を行うことが可能です(図12)。切除部分の粘膜欠損が小さいので可及的に縫合することでよく、手術の負担も少なく術後機能もほとんど障害されません

 広範囲の切除が必要な中咽頭がんの場合は、下口唇と下顎骨を離断して十分な視野を得ながら切除を行います(図13)。また、切除した部分を修復するために組織移植を行うことになります。広範囲の中咽頭の切除を行った場合、誤嚥や鼻への食事や水分の逆流などの食事の摂取障害が問題となりますが、こうような再建手術を行うことで、術後の機能障害を軽減することが出来ます。(図14)は中咽頭の欠損部に大腿部分から皮膚皮下組織を移植して再建した直後の状態を示します。

図13

図13

図14

図14

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⑥上顎全摘術

図15

図15

 鼻や副鼻腔のがんの中で最も頻度の高い上顎がんの手術を示します。上顎洞は頬の奥にある空洞で鼻腔とつながっています。ここにできたがんを上顎がんといいますが、腫瘍の大きさや部位によって手術方法が大きく異なります。腫瘍が小さければ口の中からの切開だけですむこともあり、術後の機能障害も殆どありません。

 しかし、腫瘍が大きくなると、鼻の外縁や目の下に沿って切開を加え上顎(あご)を含めた切除(上顎全摘術)が必要となります(図15)。更に進行がんでは、顔面の皮膚や眼球を摘出することもあります。このような場合には、食事や会話の障害、顔貌の変化などの後遺症が大きな問題となりますので、腕やお腹、肩などから組織を移植することがあります。(図16)は腹部の皮膚を上顎の部分に移植し中央に入れ歯を装着するための隙間を開けてある状態です。特殊な義歯(義顎)(図17)や顔面補綴物を作成することにより、障害の軽減を図ることができます。

図16

図16

図17

図17

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⑦甲状腺がん

図18

図18

 甲状腺がんの中でも最も頻度の高い乳頭がんの手術を示します。甲状腺はのど仏のすぐ下の気管の前にある、左右に羽を広げた蝶のような形をした組織で、甲状腺の裏側には声を出すために大切な「反回神経」が走行しています。基本的には、がんが甲状腺の片側にあり小さな場合は片側の甲状腺の切除を行い、がんが大きいときや、反対側にも存在するときなどは甲状腺を全て摘出します。(図18)は甲状腺の左側半分を切除した状態を示します。更に進行したがんでは、反回神経や気管の合併切除を行うことがあります。いずれの場合にも、腫瘍の進展度に応じて、頸部のリンパ節の郭清術を同時に行います。「声がかすれる」、「高い声がでない」など喉の症状が一番問題となる後遺症です。自然に改善するとも多いので、まず様子を見ますが、長引く場合には手術による治療も可能です。甲状腺を全て摘出した場合はもちろんですが、甲状腺が半分残っている場合にも、手術後に甲状腺ホルモンの内服を一生必要とすることがあります。甲状腺を全て摘出した場合には、低カルシウム血症とならないように、更に、カルシウムやビタミンDの内服を必要とする場合があります。

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⑧耳下腺がん

図19

図19

 唾液腺に発生するがんの中で最も頻度が高いのは耳下腺がんで、病理組織学的には粘表皮がんと腺様嚢胞がんが多いとされています。耳下腺は、その中を枝分かれしながら貫通する顔面神経を境に、神経より浅い部分(浅葉)と深い部分(深葉)に分けられます。耳下腺がんの多くは浅葉に存在し、手術法としては耳下腺浅葉切除が行われます。可能な場合には顔面神経は保存して、それより表層の耳下腺浅葉と共にがんを摘出します(図19)。しかし、がんが顔面神経に食い込んでいる場合には、顔面神経の一部を切断せざるを得ません。また、がんが耳下腺全体にひろがっている場合には、顔面神経ごと耳下腺を全摘します。切断した顔面神経は、神経移植や頸部の神経を利用して再建することがあります。

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