V.放射線治療

①放射線治療の概要

 放射線治療は腫瘍に放射線をあてて、これを縮小・消失させる目的で行われます。手術とは異なり人体の解剖学的な構造が基本的に温存されるため、治癒後の容貌変化、発声や咀嚼・嚥下機能などの低下が少ないことから頭頸部がんの治療に広く用いられています。また手術単独では治療が難しい場合に、手術に加えて放射線治療が併用される場合があります。場合によっては更に抗がん剤による化学療法も追加することもあります。

図23

左:強度変調放射線治療(IMRT) 右:通常の放射線治療

 放射線治療では病巣周辺の正常組織の被ばくが問題となりますが、近年では画像診断の進歩とコンピュータを用いた治療計画の発達によって、正常組織の被ばく線量を減らして腫瘍に集中的に放射線をあてる技術が急速に進歩してきています。

 右の図の赤く塗られた部分が腫瘍、等高線のような線は線量の強さを表す等線量曲線です。(線の内側ほど高い線量が照射されています)右側が通常の放射線治療で、赤く塗られた腫瘍の部分と舌、脊髄が同じように照射されています。左側が強度変調放射線治療で、舌と脊髄の部分が避けられています。

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②放射線治療の流れ

【a.診察】

 頭頸科(耳鼻咽喉科)医、放射線治療医による診察を行います。特に原発巣に関しては間接喉頭鏡や内視鏡などを用いて腫瘍の範囲を特定し、CTMRIの画像とあわせて治療計画に反映します。

【b.治療計画】

 実際にどの範囲に放射線治療を行うかのシミュレーションを行います。治療計画に際して首や顔が動かないようにシェルと呼ばれるお面のようなものを作ります。お面は加熱すると軟らかくなり、冷却すると硬くなる特殊な素材でできています(右図はその一例ですが病院によって、使用しているシェルの形状は一部違います)。

 まず患者さんはCTの台に仰向けにリラックスした状態で寝ていただきます(モデルは国立がんセンターの医師)。加熱して柔らかくなったシェル素材樹脂を顔面に当てて型を取ります。シェル素材は加熱されていますが、やけどはしない程度になっています。また鼻や口は密閉されないので呼吸は楽にできます。シェル素材は軟らかいうちに顔面の輪郭にフィットさせるとその形状のまま冷却され硬くなっていき、5〜10分ほどでお面が完成します。

 この様にしてお面を作成することで首や顔の位置を固定する事ができます。位置を固定することで、治療時に放射線の当たる部位が動いてしまう危険を最小限にします。さらに体にマーキングを行い体幹部もずれない工夫をします。

【c.リハーサル】

 治療台に乗り照射範囲を実際の治療に用いる放射線を使った写真(リニアックグラフィー)で確認します。治療計画のコンピュータ画像と照合し、ずれている場合は修正して治療に入ります。治療期間中にも再度LG撮影を行い再現性の確認を行うことがあります。

【d.治療開始】

治療装置

治療装置

 治療台の上に乗りシェルを装着してその場でじっとしていれば治療は完了します。シェルと体につけたマーキングで位置を確認し放射線照射を行います。治療装置のおもな構成は、①ガントリーヘッド:この部分から放射線が照射されます ②寝台:患者さんが横になる台 ③ガントリーアーム:このアームが回転し様々な角度からの照射が可能になります。

実際の治療

実際の治療

 患者さんが寝台に横になり、位置がずれないようにレーザービーム(図の赤い光)で縦、横、高さの位置を確認します。毎回同じ作業を繰り返して治療中の誤差をできるだけ少なくしています

【e.治療後フォローアップ】

 放射線治療は、後の項で詳しい説明がありますが、その効果/副作用ともに治療が終了してからでてくることがあります。したがって治療が終了した後も放射線科もしくは頭頸科(耳鼻咽喉科)の先生にしっかりと経過を観察してもらうことが大切です。

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③放射線治療の実際

 頭頸部がんの根治的放射線治療では、がんの種類や進行度によっては1日1〜2回治療を行うことがありますが、もっとも一般的なものは1日1回3〜5分、週5回、合計35回で約7週間の治療法です。近年開発された強度変調放射線治療(IMRT)や粒子線治療の場合には一回の治療に20〜30分かかることもあります

 実際は腫瘍の部位や種類、患者の状態、正常組織の反応に応じて個別に決定されるため、患者さんごとで治療に多少の差があります。また症状緩和を主目的とした場合は、より短期間の治療が行われることがあります。

 放射線治療は、頭頸部領域のすべての悪性腫瘍が適応ですが、根治治療として主に用いられるのは上咽頭がん、中咽頭がん、早期の声門がん、喉頭全摘を要する進行喉頭・下咽頭がん、鼻・副鼻腔がん、そして切除不能がんなどです。これらの部位で報告されている最新の治療成績は、国内外を問わず手術治療に比べ遜色がないと考えられます。

 放射線治療の特徴として、次に述べるような有害事象はありますが、治癒した症例では切除治療に比べて変形が少なく、音声機能なども良好なことが放射線治療の利点です(図:喉頭全摘術の図にリンク)。しかし治療の選択には、がんの部位や種類、進展範囲、形状、患者の全身状態など様々な要因を考慮する必要があるため、専門医とよく相談する必要があり、患者さんが放射線治療を希望しても、うまく放射線治療の効果が発揮できない場合もあります。

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④放射線治療の副作用

 有害事象(副作用)としては以下のようなものが挙げられます。副作用の出現時期については最後の表を参照してください。

1)粘膜・皮膚の炎症

放射線治療による皮膚炎

放射線治療による皮膚炎

 治療期間中は、放射線が照射された部分の皮膚、粘膜に炎症に伴うただれや疼痛が生じます。右は喉頭がんに対する放射線治療によってできた皮膚炎の例で、放射線の照射野に一致した部位に皮膚炎が発生しますが、放射線の当たっていない部位の皮膚には炎症は起こりません。この炎症反応は抗がん剤による化学療法が併用される場合などでは強くなることがあり、治療前〜後にかけての栄養管理や疼痛管理が重要です。

放射線治療後に回復した皮膚炎

放射線治療後に回復した皮膚炎

 右の写真は放射線治療終了後後2週間経過(上の写真からは3週間経過後)した皮膚炎の状態で、皮膚炎は回復し、日焼けのように色が少し残ります(色素沈着)色素沈着は数ヶ月でほぼ消失します。

 皮膚炎は治療期間中の副作用なので、適切に処置すれば回復しますが、色素沈着など照射の痕が残ることもあります。

2)唾液分泌障害

 大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)、小唾液腺(口腔咽頭粘膜に存在)が照射された場合に生じる。照射される量が多いと非可逆的となり唾液が出なくなります。長期間にわたり唾液が出ない状態が続くと持続性の口腔咽頭の乾燥を生じ、齲歯(むし歯)の原因ともなります。また乾燥が強い場合は食事の飲み込みが困難になる場合もあります。

3)放射線性骨髄炎、骨壊死

 口腔乾燥や齲歯(むし歯)が悪化すると上顎の骨や下顎の骨に感染し、骨髄炎や骨壊死に発展する場合があります。頻度はそれほど高くありませんが骨壊死がひどい場合は骨の切除や骨移植による再建術を必要とする場合もあります。このため放射線治療前には齲歯の有無のチェックや予防的処置などの口腔ケアが非常に重要です。また適切に口腔内を清潔に保ち、歯科処置の際にも適切な感染予防と創のケアをおこなえば、骨壊死は確実に予防できます。

4)味覚障害

 舌に放射線が照射された場合に生じます。これは舌に病変が無い場合でも、周辺の歯肉や中咽頭のがんなどに対して放射線治療を行った際に、舌を完全に避けることが出来ない場合でも生じることがあります。照射範囲が狭ければ半年〜1年後に味覚はほぼ回復しますが、範囲が広いと長年にわたり味覚低下が持続することがあります。

5)嚥下困難、誤嚥

 がんによる正常咽頭構造の破壊が強い場合や、両側頸部の広範なリンパ節転移に対する放射線治療を行った場合、あるいは喉頭や下咽頭の進行がんの治療後に生じる場合がありますが個人差がります。また、手術と併用した場合に強く出る傾向があります。治療前後の喫煙や酒はこれらの症状を悪化させる重要な因子であり、特に禁煙は頭頸部に放射線治療を受けた患者さんにとって非常に重要です。

6)聴力低下

 外耳、中耳、内耳に近接する腫瘍に対する放射線治療後に生じることがあり、耳鳴や、めまいを伴うこともあります。

7)その他

 がんの部位や治療法によっては視力障害、脳神経障害、開口障害、摂食時の鼻逆流、甲状腺機能低下などが生じることがあり、まれに脳壊死、脊髄障害が生じる可能性があります。出現時期は数ヶ月から数年後のことがあります。視力、脳・脳神経、脊髄の障害は重篤なので、通常はこれが発生しないように放射線の照射範囲や量を設定しますが、腫瘍がこれらの重要臓器にきわめて近接している場合はこれらの合併症は従来の方法では避けることが困難でした。しかし強度変調放射線治療(IMRT粒子線治療などの最新の治療技術を用いれば、これらの副作用を回避することが可能になってきています。

頭頸部放射線治療の副作用:出現時期

頭頸部放射線治療の副作用:出現時期

 放射線治療の副作用には早くに出現しすぐ治るものから、いったん出現すると治りにくいものまで様々あります。ただし個人差も大きいため、この表のとおりになるとは限りません。治療前に医師から副作用についてよく聞いてください。

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